岩手県のお菓子「不来方バウム」に使われている、変わった材料とは?

木の年輪のような見た目のバウムクーヘンは、棒に少しずつ生地をつけて焼いていくからあの見た目になるのです。日本でも有名なお菓子ですが、岩手県には不来方(こずかた)バウムというものがあります。今回は不来方バウムの味と隠れたドラマを紹介します。

タルトタタンの人気メニュー不来方バウム

不来方バウムは、岩手県の「タルトタタン」という洋菓子店のお菓子です。見た目は普通のバウムクーヘンと変わりませんが、隠し味に醤油諸味(もろみ)が使用されています。それもただの醤油諸味ではなく、岩手県陸前高田市で醤油の醸造を営む「八木澤商店」の諸味を使用しています。店の人の話では、不来方バウムの味は八木澤商店の醤油諸味でしか出せないということです。素材へのこだわりが垣間見えますね。
しかし、そのため不来方バウムは一度消滅の危機に陥ったことがあります。東日本大震災が発生したとき、八木澤商店の醸造所は津波に流されてしまったのです。諸味は菌による発酵で作られるものです。八木澤商店の諸味は、二百年以上の歳月をかけて育て続けられたもので、新しい設備を作っても一朝一夕でかつての味を再現することはできません。八木澤商店の醸造所と諸味の消失とともに、不来方バウムの生産もおしまいだと思われました。

しかし、震災の翌月に思いもかけないことが起きます。微生物研究のために、釜石市の水産技術センターに送っていた八木澤商店の諸味が無事に残っていたのです。八木澤商店はその諸味を培養して、震災前の味を復活させようとしました。さまざまな支援を得ながら醸造所を再建して、諸味も生産できるようになりました。そして、3年の歳月を経て不来方バウムも復活したのです。

八木澤商店と不来方バウムは奇跡の復活だった

震災後、八木澤商店の醤油諸味は奇跡的に発見されました。
八木澤商店は醸造所を失っても、従業員をただの一人も解雇せず、内定を出していた二人の新入社員も雇い入れました。そう決断したことでマスコミから取材を受けて、入社式の様子もテレビで放送されることになりました。
そのニュースは、醤油諸味を提供された水産技術センターの研究員も目にすることになります。ニュースをきっかけに、水産技術センターに諸味が無事に残っていないか探してくれたのです。センターは海岸付近にあったため、津波被害で二階まで浸水して建物内部は荒れ果てていました。しかし、そんな状態でも保管に使用していたロッカーはかろうじて浸水を免れ、中の諸味はきれいに残っていたのです。

もし、八木澤商店が従業員を全員雇い続けると決めなかったら。もし、そのニュースを研究員の人が見ていなかったら。もし、諸味の保管場所が少しでも違っていたら。このようないくつもの偶然が重なった結果、醤油諸味は無事に見つかり、八木澤商店は再建への一歩を踏み出すことができたのです。
何か一つでも欠けていれば諸味が発見されずに、不来方バウムはそのまま消えていた可能性が高いです。そう思うと、すごく貴重なバウムクーヘンに思えてきますね。

不来方バウムはなつかしさを感じる味

不来方バウムは醤油諸味を使っているので、口に含んだときにほんのりと醤油の香ばしさを感じられます。醤油の香りはあくまでアクセント、味はバウムクーヘンの甘みがメインです。洋菓子だけれども、少し和風っぽい不思議な味がするという評判です。
この不来方バウムは、タルトタタンの各店舗で購入することができます。店舗は「八幡町本店」「パルクアベニュー・カワトク店」「フェザン店」「アネックスカワトク店」「矢巾店」の5つとなっています。どれも、岩手県内の店舗になりますが、タルトタタンの公式ホームページでは通販も受け付けているので、そこから注文することも可能です。
賞味期限は製造後から10日ほどになっていますが、開封したらなるべく早めに食べましょう。

不来方バウムは奇跡のバウムクーヘン

岩手県の定番のお土産になっている不来方バウムですが、その裏には八木澤商店の不屈の精神と奇跡的に助かった醤油諸味があるのです。同じ岩手県にある「奇跡の一本松」のように、不来方バウムも復興の象徴とされる日が来るかもしれませんね。

ザ・ご当地検定の問題

Q. 岩手県のお菓子「不来方バウム」に使われている、変わった材料といえば?

A.醤油もろみ