大分県では、県外の人にはあまり知られていない、ある野菜の呼び名があります。夏になると食卓によく並ぶこの野菜は、芋の仲間でありながら、地元では独特の名前で呼ばれてきました。何のことか伝わりにくい名前の由来や歴史、おいしい食べ方について見ていきます。
大分の郷土食「てんじく」ハス芋とはどんな野菜か
ハス芋は、里芋と同じ仲間に分類される植物です。ただし里芋のように土の中の芋を食べるのではなく、長く伸びた茎の部分を食用にします。茎を輪切りにすると、小さな穴がいくつも空いた、スポンジのような断面が現れます。穴が多い構造のおかげで味がしみ込みやすく、シャキシャキした歯ごたえを楽しめる野菜です。
大分県では、ハス芋を「てんじく」と呼びます。名前の由来を示す明確な記録は残っていないものの、いくつかの説が伝えられています。「天竺」はインドを指す古い呼び方で、遠くからもたらされた食材という印象から名付けられたという説です。ほかにも、元々の呼び名が変化して「てんじく」になったという見方もあります。
てんじくがいつ頃から大分県で作られるようになったのか、正確な時期を示す資料は見つかっていません。ただ、暑さが厳しい夏でもさっぱりと食べられる野菜として、家庭の食事に取り入れられてきたと考えられます。酢の物にすると涼しさを感じられることから、季節の変わり目に食べる習慣として根付いたようです。
大分で「てんじく」が選ばれてきた理由
てんじくは、酢の物にすると爽やかな酸味とシャキシャキとした歯ごたえが際立ちます。夏は食欲が落ちやすい時季ですが、てんじくを冷たい酢の物にすると、さっぱりとした後味で体の中から涼しさを感じられます。暑さで料理の手間を減らしたい日にも重宝する野菜です。
栽培環境の面から見ると、ハス芋は高温多湿の環境を好み、乾燥した土地を苦手とする植物です。寒さにも弱いため、気温が十分に上がる初夏から夏にかけて植え付けが行われます。大分県の夏は気温と湿度が高く、ハス芋の生育条件と重なる部分が多いと考えられます。気候の面からも、てんじくが栽培しやすい土地だったと言えそうです。
栽培しやすい条件がそろっていたこともあり、てんじくは大分県内の家庭で広く作られてきました。夏場になると、庭先や畑で育てた分を自宅で調理し、酢の物として食卓に出す家庭も多くあります。季節ごとの家庭料理として、てんじくは夏の食卓を彩る野菜の一つにもなっています。
「てんじく」の食べ方とアレンジレシピ
てんじくの定番料理は、酢の物や酢味噌和えです。皮をむいて薄く切り、下ごしらえをしたら、酢や砂糖、味噌などで和えれば完成です。きゅうりや大根と一緒に和えると彩りも豊かになります。仕上げに青じそやみょうがを添えると、香りがさらに引き立ちます。
てんじくは、切ってすぐに調理をすると、青臭さやえぐみが残りやすい食材です。切ったあとに水へ浸けてアクを抜く工程が欠かせません。酢を少量加えた水にさらすと、変色を防ぎながら青臭さも和らぎます。
下ごしらえを済ませれば、てんじくは酢の物以外の料理にも活用できる食材です。味噌汁の具にすれば、いつもとは違った食感を楽しめます。油で炒める場合は、他の野菜と合わせて短時間でさっと火を通すのがポイントです。調味料がなじみやすいため、味付けを変えるだけで全く違う料理になります。
「てんじく」の旬と購入方法
てんじくの旬は、6月から8月にかけてがピークです。梅雨から真夏にかけて、茎がぐんぐん伸びる時季にあたります。旬の時季になると、大分県内のスーパーや青果店の店先にも並びやすくなります。夏の終わりとともに出回る量は減っていくため、見かけたときが購入のチャンスです。新鮮なものは切り口がみずみずしく、皮にハリが感じられます。太さがそろい、色むらのないものを選ぶと安心です。
てんじくを手に入れたいときは、大分県内の直売所や道の駅を訪ねてみるとよいでしょう。地元で採れた野菜を扱う店舗では、旬の時季にてんじくが並ぶことがあります。スーパーの地場産コーナーで見かけることも珍しくありません。近くに直売所がない場合は、通信販売を扱う生産者や店舗を探してみるのも一つの方法です。手に入れたら、なるべく早めに調理して、シャキシャキとした歯ごたえを楽しんでください。
大分で「てんじく」と呼ばれるハス芋は、シャキシャキとした歯ごたえと歴史を持つ夏の野菜です。酢の物や炒め物などさまざまな料理に活用でき、6月から8月には県内の直売所やスーパーでも手に入りやすくなります。旬を迎えたら、ぜひ一度、てんじくを食卓に取り入れてみてください。
ザ・ご当地検定の問題
Q.大分では「てんじく」とも呼ばれ、その茎が酢の物にされる食材はなに?
A.ハス芋









