東北地方のある県の漁獲高は、北海道に次ぐ全国第2位です。南部さけの愛称で親しまれており、良質な栄養成分に恵まれていることに加えて、捨てる部位がありません。様々に加工されて販売されるところにも特色があります。
名産を生み出す秘密は漁法にあり
岩手県民にとって、秋さけは冬季の貴重なたんぱく源であり、昔から食されてきた重要な魚種でした。三陸・海の博覧会の開催をきっかけに、1992年2月21日、南部さけとして県魚に選ばれています。紡錘の体型が特徴的で、秋になると産卵のために川を遡上しはじめます。体長は90センチほどです。岩手県は本州第1位の漁獲量を誇り、定置漁業が約9割を占めます。この漁法のおかげで、水揚げ時の鮮度の良さが保たれます。そのため、いくらの皮が柔らかく、市場から高評価を得てきたのです。県では資源管理を徹底すべく、遡上する川にふ化場を設置し、採卵作業をおこなってきました。安定的に育成し、放流するのが目的です。
そのふ化場が2011年の大地震で被災したことから、放流の安定性が崩れてしまいました。しかし、関係者の努力の成果が徐々に現れ、震災直後は7割ほどに落ち込んだ漁獲量が9割まで回復しています。
南部さけを食べて全身健やかに
フードロスが世界的な問題になっていますが、さけは捨てるところがありません。美味しさが濃縮した身や卵はもちろん、頭は三平汁と粕汁に合います。忘れてはならないのが氷頭と呼ばれる鼻柱で、なますか和え物にして食すのが定番です。中骨も缶詰加工されており、人気が高いです。栄養面でも優秀さが際立っています。頭の働きにコミットし、コレステロールを下げることが期待できるDHAや話題の成分であるEPAはよく知られた存在ですが、抗酸化作用があることで注目を集めているアスタキサンチンも多く含んでいます。しかも低カロリーで良質のたんぱく質が摂れるのです。
食べ方はバラエティに富んでいますが、なかでも県民の舌を唸らせてきたのが燻製です。南部さけの加工研究会の立ち上げによって加工技術の開発が進められ、低い温度で長時間燻してつくられる方法が誕生したのです。使うのは塩だけであり、ほかの添加物はいっさい加えていない代物です。スライスしてオリーブオイルに絡めれば根菜類との和え物が簡単にできます。削ってパスタに加えるのもシンプルで人気があるメニューです。
震災を乗り越えた新しいブランド
岩手県の新しいシンボルを狙っているのは、北海道に次ぐ漁獲高が自慢の南部さけだけではありません。農作物のなかにも新時代のエースがあります。そのひとつがユズです。県内でも比較的温暖な陸前高田市で栽培されてきました。岩手県には全国でも指折りの蔵元がありますが、そのうちのひとつである銘酒・南部美人の蔵元とのコラボが実現したことがきっかけだったのです。しかし、ユズリキュールの販売が実現した矢先に東日本大震災で被害を受け、取り組みは中断してしまいました。一度は失意に沈んだ生産現場でしたが、県の研究センターや大学の研究機関などがタッグを組み、今度は北限のユズというブランド化を推し進める活動へと舵が切られています。
震災前から取り組んでいたリキュールを使ったケーキやクッキーといった加工製品の製造や販売を進めつつ、ブランド化はもちろん、シンボル化も徐々に浸透しています。さらに、岩手県には泉質に恵まれた数々の温泉があります。冬期間は日本海側ほど雪は多くないものの、身を切るような冷たい風が吹きつける土地柄ですので、温泉地との共演に期待が高まっています。
郷土愛は遡上する南部さけと同じ
大震災による甚大なダメージにも負けない、勤勉で逞しい岩手県民の心は、全国指折りの名産品を日本はもちろん世界に向けて発信しています。南部さけもまた、数多くの関係者たちの努力が奏功し、その濃厚な美味しさを届けることができるようになりました。
ザ・ご当地検定の問題
Q. 「南部さけ」などで有名な、北海道に次ぐ鮭の漁獲高を誇る県は?
A.岩手県