奈良県のなかでも南部を占める吉野郡は、紀伊半島のなかでも中心部を占めています。南の和歌山県や三重県の南部地域にかけて広がる奈良県吉野郡南部は、紀伊山地の山並みが連なる地域です。今回は、そんな吉野郡の南部で食べられている郷土料理を紹介します。その見た目は、ほかの地域ではあまり見られない独特のものです。
いったいどんな食べ物!?
「めはりずし」は、浅漬けにした高菜の葉の漬物で俵型に丸めたご飯を包んだ食べ物です。奈良県のなかでも南部を占める吉野郡に加えて、和歌山県や三重県の南部も含む地域の郷土料理として知られています。もともとは、農家や林業に携わる人々が畑仕事や山仕事にでかけるとき、食べやすいようにご飯を高菜で包んで持って行っていたものが始まりです。
めはりずしという名前の由来は複数あります。そのひとつは、大きなめはりずしを食べるとき口を大きく開けるだけでなく、目も大きく見張るからという理由です。畑や山で忙しく働く合間に食べるために作られていためはりずしは、もともとソフトボール大ほどの大きさに作られていました。現代でも、めはりずしそのものが大きく、食べるときに大きく口を開けることが多いです。また、少しかじっただけでもご飯が崩れる普通のおにぎりとは違い、周囲に巻かれた高菜の葉っぱを噛み切るために大きく口を開けて食べることも多いのかもしれません。実際に口を大きく開けると同時に目も見開いてしまう様子をイメージしただけでも、めはりずしという名前が付いたことを納得させられますよね。一方、目を見張るほどおいしい食べ物という理由からこの名前が付いたともいわれています。
もともとは畑や山に仕事に行くときに持っていたお弁当のようなものだっためはりずしは、郷土料理として地元の人々に長く親しまれてきた食べ物です。そして、地域ならではのグルメとしてお店で提供されるようになったり、お土産として購入できるようになったりしながら、徐々にほかの地域でも知られるようになりました。それにつれて、大きくて目を見張るようにして食べたことが名前の由来になっためはりずしとはいえ、小さめで食べやすいサイズで作られるようになっているものもあります。
めはりずしが食べられている奈良県吉野郡南部ってこんなところ
吉野郡の北部にある吉野町は桜の名所として有名な吉野山があります。この吉野山をはじめとした奈良県吉野郡から和歌山県、三重県の地域にかけて広がるエリアは、広く吉野熊野国立公園に指定されており、豊かな自然が広がっている地域です。また「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界文化遺産に登録されているスポットが点在しています。吉野郡には吉野山のほか金峯山寺や金峯神社、吉水神社など、国内でも国宝や重要文化財として指定されている場所が多いです。そして、奈良県吉野郡南部の天川村にある大峰山は古くから行者が修行に訪れる山として知られ、山頂に建つ大峰山寺も世界遺産として登録されています。
天川村には秘境と呼ばれる洞川温泉郷があり、弱アルカリ性単純泉の温泉を楽しめるのはもちろん、昔ながらの素朴な街並みが特徴です。村営の「村営洞川温泉センター」では、日帰り入浴のできる露天風呂と吉野杉を使った内湯があります。また、木にこだわった建物で浴槽も高野槙でできている「天の川温泉センター」も、日帰り入浴や足湯を気軽に楽しめる施設です。
天川村の南にある十津川村にも十津川温泉郷があります。また、山地をくぐり抜けるように川が流れており、観光スポットとして有名になった鉄線の「谷瀬の吊り橋」は高さ約54m、長さは約297mです。ほかにも、日本の滝100選に選ばれている「笹の滝」「十二滝」「清納の滝」など、美しい滝の風景も見ることができます。さらに、吉野熊野国立公園内の有名スポットとして奈良県と和歌山県、三重県にまたがっている「瀞峡」も十津川村で有名な観光地です。瀞峡は巨岩が切り立つ断崖が続く大峡谷で、川舟で下ることができます。
天川村の東に位置する上北山村は東側を三重県と接しており、豊かな原生林が広がる大台ケ原は多くの登山やトレッキングを楽しむ人々が訪れるスポットです。日本百名山のひとつにも数えられていますね。また、大台ケ原は1980年に生態系の保全を図りながら人間との共生をはかる「ユネスコエコパーク」としての指定も受け、自然環境の保全と活用に力を入れています。上北山村は水も美しく、アユやアマゴなど渓流釣りに訪れる人も多いエリアです。上北山村の南にある下北山村にも温泉があるほか、かつて行者が通った「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」が通っています。
奈良県吉野郡南部でめはりずしが食べられるお店
十津川村にある「道の駅 十津川郷」にあるレストラン「そば処 行仙」では、地元十津川村産のきのこを使ったきのこ蕎麦やふわふわの卵とじに梅干しがのった梅とじ蕎麦など、蕎麦のメニューが多彩です。そして、土日祝日のご飯ものメニューとして、めはりずしも提供されています。また、天川村の洞川温泉郷にある「きらく九兵衛」というお店もめはりずしを食べられるお店です。1917年創業という老舗のお店で、地元で獲れる魚や鹿肉を使った料理や奈良名物の柿の葉寿司などの郷土料理が提供されています。川沿いにあり、自然豊かな洞川温泉郷の風景を眺めながら食事ができるお店です。
めはりずしは普通、高菜の葉を使って作られます。ただ、高菜以外の葉っぱを使った変わり種のめはりずしを食べられるお店もあるのです。三重県の熊野市との県境に近い下北山村には、多目的グランドやキャンプ場、温泉、宿泊施設などを備えた「下北山スポーツ公園」という施設があります。下北山村では高菜と同じアブラナ科の真菜という野菜が栽培されており、施設内のレストラン「きなり亭」では、この真菜を使っためはりずしが提供されているのです。めはりずし単品以外に、真菜の粉末を練り込んだうどんや豆腐、アイスクリームとめはりずしがセットになった定食も食べることができます。
めはりずしはレストランやお食事処で食べられるだけではありません。ほかにも、十津川村にある「山の駅 吊り橋の郷」「道の駅 十津川郷」「お食事処・お土産 たにせ 」をはじめ、お土産やテイクアウトとしてめはりずしを購入できるお店もあります。また、吉野郡からさらに南に足をのばした和歌山県新宮市にある「総本家めはりや」では、お店でめはりずしを食べられることに加え、めはりずしを作れるセットを購入することが可能です。
高菜があれば家でもめはりずしが作れる!
高菜の葉が1枚そのままの状態で塩漬けなどの漬物にされたものがあれば、家でも簡単にめはりずしを作ることができます。もちろん、新鮮な生の高菜を購入し、自分で漬物を作ってもかまいません。漬物にされた状態の高菜の葉は、まず塩分を落すために流水で洗います。高菜の葉を広げて茎の部分を切り取り、捨てずに残しておきましょう。大きさにもよりますが、葉っぱを半分に切ったものでめはりずし1個分です。
また、酒大さじ3、みりん大さじ1、薄口しょうゆ大さじ1をひと煮立ちさせて漬け汁を作って冷ましておきます。水洗いして適度に塩分を抜いた高菜の葉を漬け汁にくぐらせて軽く味を付ける程度にするか、半日から1日漬け込んでしっかり味を染み込ませるか、そのへんはお好みで。残しておいた高菜の葉の茎はみじん切りにして、おにぎりをつくるご飯に混ぜます。葉を漬け込むときに使った漬け汁も混ぜ合わせ、お好みで白ごまをふりかけて俵型のおにぎりを作りましょう。漬け汁の味を付けた高菜の葉でおにぎりを包めば出来上がりです。
自然や観光スポットに恵まれた吉野郡南部!ぜひ郷土料理のめはりずしも味わってほしい
かつて奈良県吉野郡南部から和歌山県、三重県にかけての地域で、畑や山で働く人々が仕事の合間に食べやすいように工夫して作られためはりずし。郷土料理として親しまれながら、地域ならではのグルメやお土産の品として知られるようになりました。吉野郡に含まれる十津川村や天川村、上北山村、下北山村などでは、紀伊山地の豊かな自然や温泉に恵まれたエリアが多いのが特徴的です。また、紀伊山地の霊場と参詣道として世界遺産に登録されているスポットも点在しています。そんな奈良県吉野郡南部を訪れるのならば、郷土料理として親しまれてきためはりずしもぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
ザ・ご当地検定の問題
Q. 奈良県吉野郡南部の郷土料理となっている、高菜の塩漬けで包んだ握り飯は?
A.めはりずし
Q. 奈良県の「めはりずし」で、ご飯に巻かれる野菜は?
A.高菜
Q. 奈良県天川村にある、秘境と呼ばれる温泉郷は?
A.洞川温泉