九州の沿岸地域には、魚にまつわる独自の呼び名が数多く残されています。なかでも平らな体つきが特徴のある魚には、少し風変わりな名称が与えられてきました。今回は、日常生活でも耳にする魚の一種が、九州地方でどのように呼ばれてきたのか、その背景について解説します。
シタビラメが「クツゾコ」と呼ばれる理由とは？
「クツゾコ」とは、本来「靴の裏側」を指す言葉です。この表現が魚に転用されたのは、九州地方の方言に特徴的な感覚だと言われています。魚の種類や生態とは関係なく、日常の物になぞらえることで覚えやすく親しみやすくなるという、土地ならではの言葉文化が背景にあります。
シタビラメの体は左右に扁平で、裏面が地面に接して泳ぎます。その姿がちょうど靴底を連想させることから、呼称として定着したと考えられています。特に薄く広がった体形や落ち着いた色味が、「地味だが味のある魚」という印象を深め、見た目からの命名につながりました。
「クツゾコ」という言い方は熊本県を中心に、福岡県南部や佐賀県南部の有明海沿岸地域で使われる傾向があります。一方、鹿児島では「ベタ」、宮崎では「ヒラベタ」と呼ばれることもあり、呼称に地域差があるのが興味深い点です。漁業や生活圏の違いが、名称の多様性を生んでいると考えられます。
シタビラメの特徴と魅力｜クツゾコと呼ばれる魚の実力
シタビラメは体が左右に平たく、片側に両目が寄っているという特徴があります。体色は砂地に馴染む褐色系で、擬態に優れています。ヒラメと混同されがちですが、シタビラメの方が体が細長く、口元の形にも違いがあります。泳ぎ方も異なり、動きはより穏やかです。
初夏から秋にかけて水揚げが安定する魚種で、特に味わいが深まるのは梅雨明けから盛夏にかけてとされています。この時期は脂のノリがよく、煮付けやムニエルといった調理法との相性も高まります。漁業関係者の間でも旬とされる季節です。
有明海の遠浅な海域特性を活かした底引き網漁業により、年間を通じて安定した水揚げがあり、特に夏場は漁獲量が増加します。地元では「クツゾコ」と呼ばれ、家庭料理にもよく使われてきました。市場でも比較的安定して流通しています。
シタビラメ（クツゾコ）のおすすめ料理と調理法
シタビラメは上品な味わいと身離れの良さから、煮つけやムニエルに使われることが多くあります。加熱しても身が崩れにくく、ソースとの相性も良好です。刺身として楽しむ地域もあり、さまざまな料理に活用しやすい魚として飲食店でも重宝されています。
熊本では「クツゾコの煮つけ」が家庭料理としてよく知られています。砂糖と醤油をベースにした甘辛い味つけが、柔らかな身に染み込みやすく、ご飯のおかずにも最適です。
シタビラメは鮮度が落ちやすいため、調理前の下処理が重要とされています。うろこを丁寧に除き、塩を振ってから数分置くことで余分な水分が抜け、臭みも軽減されます。骨ごと煮る際は湯通し（霜降り）を施すと、味がしみ込みやすくなるため、仕上がりが一段と上品になります。
「クツゾコ」を食べられる店・買える場所｜熊本のおすすめ情報
熊本市内や荒尾市の和食店では、「クツゾコの煮つけ」や「唐揚げ」が提供されることがあります。とくに港町に近い店では、水揚げ直後の鮮魚を使った料理も魅力です。事前にメニューの確認をしてから訪れるのが確実です。
道の駅『有明』『あさくら』などの直売所や熊本地方卸売市場では、地元で水揚げされたクツゾコが販売されることがあります。朝の水揚げ直後の午前中が最も品揃えが豊富で、価格は1尾あたり300円前後が目安となっており、旬の時期にはまとめ買いされることも珍しくありません。また、熊本市内の魚市場や大型スーパーでも取り扱いがあり、加工品として真空パックも販売されています。
インターネット通販では、熊本産のシタビラメを冷凍や干物に加工した商品が広く出回っています。選ぶ際は産地表示や加工日をしっかり確認し、衛生管理や品質面で信頼できる水産業者から購入するのが安心です。調理済みセットも充実しており、自宅で気軽に地元の味わいを楽しめます。
シタビラメは、地域に根付いた呼び名や食文化を通じて、熊本の人々に親しまれてきました。呼称の由来から調理法、購入先まで幅広く知ることで、より深く味わうことができます。地元の食材に触れながら、独自の魅力を持つ「クツゾコ」を一度味わってみてはいかがでしょうか。
ザ・ご当地検定の問題
Q.九州の方言で、ヒラメの一種「シタビラメ」を意味する言葉は？
A.クツゾコ
