日本茶といえば通常は積んだ茶葉を即蒸して発酵を止める緑茶のこと。中国茶のような発酵茶は、近代になって紅茶が作られるようになるまでほとんど作られていませんでした。そんな日本で、唯一後発酵を加えて作られるのが、富山県の名物茶です。
製法「後発酵」とは?
日本茶の生茶葉には酵素が含まれており、茶葉を積んでから時間を置くと、その酵素によって発酵が起こります。発酵を途中で止めたのが烏龍茶などの青茶、完全に発行させたのが紅茶です。日本茶の場合、茶葉を積んでから蒸して酵素の働きを止め、発酵をさせずにつくる緑茶が一般的です。
そのようにして作られた緑茶に、麹菌などをつけて、後追いで発行させるのが後発酵。この技術は、中国のプーアル茶などに代表される「黒茶」の作り方です。そして、富山県新川郡朝日町に伝わるバタバタ茶はこの後発酵の技術で作られています。富山県では、バタバタ茶は日本唯一の後発酵茶だといわれています(ただし実際には高知県の碁石茶、愛媛県の石鎚黒茶、岡山県の玄徳茶など日本にもいくつか後発酵茶があります)。
後発酵茶というと、プーアル茶のようなちょっとかび臭い癖のある味を想像する人もいるかもしれません。しかし、バタバタ茶はプーアル茶ほどくせはなく、特徴的な風味はあるものの飲みやすいお茶です。
バタバタ茶の歴史、どうして「バタバタ茶」と呼ばれているの?
日本では珍しい後発酵茶であるバタバタ茶。古来より朝日町に伝わっているため「朝日黒茶」とも呼ばれています。この後発酵茶の技術がいつ伝わったのかは定かではありません。あくまで説の一つですが、すでに縄文時代には中国から伝わっていたのではないかと考える学者もいるとか。
実は、この後発酵茶が「バタバタ茶」と呼ばれるようになったのは、15世紀の室町時代のこと。浄土真宗中興の祖として知られる本願寺蓮如上人が新川郡に布教のために訪れた際、現地で飲まれていた黒茶を仏教の作法で茶筅で泡立てて飲むようになったことが始まりだと言われています。茶筅を左右にばたばたと動かして泡立てるのがその名前の由来だとか。
バタバタ茶は、単に黒茶であるという以上に、その淹れ方に特徴があります。まず、ベースとなるお茶は茶葉を木綿袋に入れて1時間ほど煮出します。お碗は、一般的な茶道の抹茶碗より一回りほど小ぶりな五郎八碗を使うのが正式。五郎八碗に注がれたお茶を、普通の茶筅より細長いものを二本くっつけためおと茶筅でばたばたと泡立てます。塩を一つまみ加えてから泡立てるというやり方もあるようです。泡が盛り上がるほど泡立てたバタバタ茶はまろやかな味わい。かつては念仏講(集落で集まって念仏を唱える風習)の後に、お漬物などをお供に何杯も飲まれたといいます。
バタバタ茶を飲める場所は?
バタバタ茶は現在でも富山県新川郡朝日町で一般的に飲まれており、保存会も存在します。バタバタ茶という文化を後世に残すために作られたのが「バタバタ茶伝承館」。地元のお年寄りが集まり、来訪者はバタバタ茶でもてなしてもらえます。首都圏からバタバタ茶伝承館に行くには、まず北陸新幹線で富山駅まで。富山駅から在来線「あいの風とやま鉄道」に乗り換えて泊駅で下車。そこから車で20分。ちょっと行きにくい場所にありますが、そこでしか体験できない文化を訪ねていく価値はあると思いますよ?
都内の富山県アンテナショップ、日本橋とやま館や有楽町のいきいき富山館では、時折バタバタ茶が振る舞われるイベントが行われることもあるようです。ただし、常に行われているわけではないので、ショップに確認を入れてから訪れるのがいいでしょう。
北陸新幹線で特別な体験をしに富山県へ
北陸にはまだ知られざる伝統文化が多数残っています。富山県のごく一部に伝わるバタバタ茶もその一つ。北陸新幹線の開業で行きやすくなった富山県に、ちょっと特別な体験をしに行ってみるのもいいかもしれませんね。
ザ・ご当地検定の問題
Q. 富山県で飲まれる、日本で唯一とされる後発酵茶の名前は?
A.バタバタ茶
Q. 東京都の有楽町にある、富山県のアンテナショップは?
A.いきいき富山館