京都の煮込み料理「木の芽煮」の「木の芽」って何?

京都に「 木の芽煮 」という名物料理があります。木の芽煮は「きのめだき」と読みます。京都の奥座敷と呼ばれる鞍馬の名産である木の芽煮は、海の幸である昆布をふんだんに使っています。山深い鞍馬でなぜ昆布が多用されているのでしょう。

木の芽とはサンショウの若い芽のことだが、木の芽煮には実も入っている

「木の芽」とはサンショウのことです。木の芽は生の香辛料として使う場合鮮度が重視されますので、主要な産地は大都市近郊になることが多いようです。京都府も京都市と言う大きな街を抱えていますから産地の一つです。木の芽煮は木の芽とサンショウの実に刻んだ昆布を入れて、醤油で長時間煮たしぐれ煮の一種です。この木の芽煮は単純に木の芽とサンショウの実と昆布を煮たものではありません。まず、木の芽は夏土用に収穫して天日乾燥させたもの、晩春に収穫して塩漬けしたサンショウの実を使います。さらに、上質の利尻昆布を醤油と水を混ぜたもので洗い、そこに乾燥した木の芽とサンショウの実を入れて数時間焦がさないように煮込むのです。

そして、余熱でさらに火を通し昆布が冷めたら全体を細かく刻んで、あらかじめすくい取っておいた煮汁を掛けながら混ぜ合わせ、数日寝かせると木の芽煮の完成です。昔は刻む時に職人が両手に包丁を持ってリズミカルに刻むことから、木の芽煮を作っている店の前を通ると、醤油の香ばしい香りが漂ってきたり、リズミカルな包丁の音が聞こえてきたりと独特の楽しさが感じられました。現在ではほとんどが機械で刻まれますから、包丁の音はめったに聞けません。それでも醤油の香りが漂ってきて、思わず食欲をそそられることは今も昔も変わらぬ鞍馬の風景の一つです。

利尻昆布が使われるのは京料理の習慣から

鞍馬と言えば牛若丸が天狗相手に修行した鞍馬山のイメージがあるのではないでしょうか。天狗伝説があるような山の中と利尻昆布のイメージは繋がりにくいかも知れません。鞍馬と言うエリアを通る街道は、福井県の若狭の海産物を京の都に運ぶための道でした。今でも鞍馬を通る国道367号線は鯖街道と呼ばれています。一方、北海道で採れる利尻昆布は若狭まで船で運ばれ、やはりこの街道を通って京都に運ばれました。それを鞍馬でも購入できたというわけです。高級昆布と言うなら真昆布でも羅臼昆布でも良いのですが、京料理は色が移るのを嫌います。味がよく料理に色が移らない利尻昆布が最適だったのです。

そんな経緯があって、鞍馬で作られる木の芽煮は高級な利尻昆布が使われるようになりました。また、利尻昆布は煮込んで刻んでも角が崩れないという優れた特長があります。そのおかげで、鞍馬の木の芽煮はぱらっと仕上がっていて、ご飯との馴染みも大変良いのです。木の芽煮はしぐれ煮の一種ですから白いご飯によく合います。茶碗によそったご飯に木の芽煮を適量のせて良く混ぜると、何杯でも食べられてしまうくらいご飯の進む一品です。

原点は山菜の塩漬けを食べる習慣にあった

鞍馬をはじめとする現代の京都市北部の山間部に当たる地域では、山菜が非常に豊富にとれます。昔はそれを保存食とするため塩漬けにしていました。その名残でしょう、京都市北部の山間部では地名を頭に付けた「〇〇しぐれ」と言う土産物も良く販売されています。いずれもご飯の進むおかずです。この鞍馬には鞍馬寺や鞍馬の火祭で知られる由岐神社があって、明治時代中期にはかなりの参拝者が訪れるようになったそうです。さらに昭和4年には現在の叡山電鉄鞍馬線になる路線も敷かれたため、観光客も増えました。そうした人たち向けの土産物として、山菜の塩漬けから発展して作られたのが、現在の鞍馬名物である木の芽煮だと言われています。

鞍馬を訪れたら木の芽煮を忘れずお土産にしたい

木の芽煮は素朴な味でありながら高級な材料と手間暇をかけたしぐれ煮です。しぐれ煮でありながら貝もショウガも入っていません。しかし、かみしめると醤油の味の奥から出てくる、昆布とサンショウの旨味は紛れもなくしぐれ煮だと感じさせてくれるでしょう。

ザ・ご当地検定の問題

Q. 京都市の煮込み料理「木の芽煮」の「木の芽」とは何のこと?

A.サンショウ